胃がんリスク検診を軸とした胃がん撲滅に力をいれている横須賀市の水野靖大先生(横須賀市公衆衛生担当理事、マールクリニック横須賀 院長)に、前回に引き続きお話を伺った。今回は横須賀市で中学2年生を対象に行われているピロリ菌除菌の取り組みと、今後の展開について詳しくお話ししていただいた。

(聞き手・文 只野まり子)

■中学2年生を対象にピロリ菌除菌

――前回は、胃がんの原因の99%はピロリ菌であり、薬を飲んで除菌することができるということと、ピロリ菌には5歳までに感染し、親からの経口感染によるものがほとんどであるということを伺いました。

水野先生たちは神奈川県医師会と一緒に市内の中学2年生200人を対象にしたピロリ菌チェックと除菌を実施しているそうですね。具体的にどんなことをしているか教えていただけますか?

尿検査でピロリ菌がいるかどうかをチェックして、陽性の人にはさらに便の検査をして、確定診断後に除菌を行い、その費用を全て神奈川県医師会が負担するというものです。

ピロリ菌の除菌で将来の胃がんのリスクを下げることはもちろんですが、もうひとつの意味として、ピロリ菌が胃の中にいれば自覚症状の有無にかかわらず必ず胃炎は起きています。ピロリ菌除菌はその胃炎の治療をしているということでもあるんです。

この取り組みではピロリ菌のチェックと除菌を分けて考えています。チェックは尿を出すだけなので、対象者には何の侵襲もありません。精密検査(胃カメラは行いません)の結果、実際にピロリがいるとなった段階で薬を飲みます。これは侵襲があります(といっても重篤な問題はほとんど起こりません)ので、強制的に除菌させるようなことはしていません。除菌については20歳までにやってもらうようにお願いしています。ただ、いま除菌してくれればその費用は神奈川県医師会が負担します、ということです。侵襲があることを強制しない、ということは強調しておきたいです。

今後は、安定してこの試みを行っていくため横須賀市と組んで横須賀市だけで完結する検診に変えたいと思っています。また対象も横須賀市の中2全員に広げたいと考えています。横須賀市の中学2年生は約3,000人なので、ピロリ菌陽性率をその2%と考えると除菌対象者は60人くらいです。除菌に必要なお金ってせいぜい1万円くらいなので、治療費としては大したお金じゃないんですよ。全体の費用も900万円もかからないくらいで検診から除菌まで全部できるので、費用対効果もすごくいいんです。若いうちに除菌しておくことで将来の胃がんのリスクも下がるわけですし。いま胃がんの手術と抗がん剤治療をたった一人にするだけであっという間にこのぐらいの金額は超えますよ。

・胃カメラで見た胃の中(ピロリ菌感染で胃炎が起こっている状態)

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_205-6.pdf

――どうして「中学2年生」なんでしょうか?

理由はたくさんあります。まず、網羅性を担保したいということです。高校生になるといろいろな地域の学校に行く子も、中卒で働く子もいますよね。中学生であれば基本的には市内の学校に行っているので、市内の中2人口は網羅できます。

除菌はほとんど何の問題もなく終わるんですけど、中3になると受験があるので、万が一何かあったり、何もなくてもピロリ菌陽性であるっていうことでメンタル的に嫌な思いをさせたりすると困るから、中3はやめようということになりました。

あとは薬を許容する体重を考えたときに、中2だとほぼみんな大丈夫なんですよね。なので、中2が妥当だということです。

――前回、40歳でピロリ菌を除菌しても胃がんのリスクがゼロにはならないというお話がありましたが、中2であれば、除菌で胃がんのリスクもなくなるんですか?

ちょっと言葉は悪いんですけど、僕らは「チャラになる」と踏んでいます。そこから先、除菌した人がその後全員胃がんならないかどうかは今後エビデンスを取っていくことになります。少なくとも今より前進することは間違いありません。

■今後の展開は妊娠前の世代へのアプローチ

――この取り組みが他の自治体などにも展開していったら、全国的に胃がんが確実に減っていくっていうことですね。

そうです。個の視点では胃がんで死ななくなるし、公の視点では胃がんによる医療費がかからなくなるので、医療経済がものすごく良くなります。若年者に対する除菌なので、ピロリ菌の次世代への伝播も防げるので、胃がんは加速度的に減っていくと思います。

今取り組んでいる横須賀市内の中2全員を対象にした除菌と、すでに行われている40歳以上の胃がんリスク検診だけだとその間の人たちが抜け落ちるので、今後は妊娠前の年齢の人たちを対象にした検査をやりたいなと思っています。「成人式検診」とか「妊活前検診」とか、何か名前をつけて、やはり自治体と一緒にやりたいなと思っています。これは本人よりも、生まれてくる子供のピロリ菌感染リスクを下げるのが主目的です。なおかつ、20代ならまだピロリ菌がいたことが「チャラになる」世代だと言っている先生もいるので、本人にとってもメリットがある検査になります。先日産婦人科学会でこの話をしたら、先生たちがすごく興味をもってくださって、妊活前の婦人科のブライダルチェックの中にピロリ菌の検査も入れるよって言ってくださった先生もいらっしゃいました。

このように、全世代に対してピロリ菌の除菌を行っていくと、その後数年したところで層別化したリスクが全市民に対して分かってくるので、その人たちに胃カメラ検診を行っていくっていうところまで考えています。

・胃カメラ検査を行う水野医師

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_205-7.pdf

――すでにそこまで考えていらっしゃるんですね!胃がん撲滅に情熱をそそぐことになったきっかけは何かあるんでしょうか?

僕自身、キャリアのスタートが外科医で、がんの手術も行っていました。大腸がんなどに比べて胃がんは術後にも食事の制約などがあって、治ったはいいけど結構患者さんたち皆さん大変なんですよね。そういう実情を見ていて、胃がんは手術をしなければいけなくなる前の段階で治せた方がいいっていう思いがありました。

開業する前からピロリ菌感染症認定医という資格はもっていて、興味のある分野ではあったのですが、ちょうど僕が開業するタイミングで、横須賀市がバリウム検査から胃がんリスク検診に切り替えたんです。その実施状況をみていると非常にいいものだったので、これをどんどん進めていきたいと思ったんです。

また幸い、横須賀は医師会だけでなく、市長を先頭に議会や行政が市民の健康に前向きなので、前例にとらわれることなく市民とっていいことを取り入れやすい雰囲気です。この環境は非常に大事だと思います。

先にお話ししたように、胃がんの99%はピロリ菌由来なのですが、残りの1%は典型的でない胃がんの可能性があります。胃がん撲滅の最後の最後はやはり地道な内視鏡の検査っていうのが必要なのかなと思っています。

その前にまずは99%の胃がんを撲滅するために、他の自治体でも同じような取り組みが広がっていってほしいと思っています。胃がんを撲滅する機運を全国で広げていけば、日本から胃がんがなくなることになるはずですから。

(MRIC「Vol.205 胃がんは撲滅できる 横須賀市と地元医師会の挑戦 後編」より転載)

Source: HuffPost Japan

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